こんにちは。さやかです。
今日は記事の内容とタイトルをストレートに繋げてみました。
『さよならミニスカート』というマンガをご存知ですか?
その日、彼女は「女の子」をやめた──。
女子で唯一、スラックスで
通学する仁那が抱える秘密とは。
衝撃のドラマが幕を開ける。
作者は牧野あおいさん,『りぼん』で連載中です。
さよならミニスカート(以下さよミニ)は「異例」なマンガとして各所で話題を呼んでいるそう。
普段から全くと言っていいほどマンガを読まない私も,記事タイトルにも使ったコピー「このまんがに無関心な女子はいても、無関係な女子はいない」をどこかで目にして,意識の片隅に残っていました。
りぼん編集長の言葉なのかな?
編集長メッセージで印象的に用いられています。
さよミニは大学の友人が単行本を貸してくれたので読んだのですが,読み終えた今,彼女が私にこの本をすすめてくれた理由がわかった気がしています。
今回はなるべく決定的なネタバレは避けますが,思うところがあったシーンを切り取りセリフを引用してきますので,まだ読んでいない方はぜひ先に読んでみてください。
時期によって公開部分が変わるようですが、とりあえず1話はいつも無料で読めそうです。
今回は第1巻で特に印象に残った3場面と絡めつつ,改めて自分の経験を振り返って,女であることの不都合さとそれを踏まえた行動指針について考えてみたいと思います。
よろしくお願いします。
- スカートは 男のために 履いてねえ
- わかってる 皆が悪い わけじゃない
- わたしだけ 我慢すれば 終わるから
スカートは 男のために 履いてねえ
まず登場人物ですが,今回の記事におけるさよミ二の主要なメンバーはこの3人です。
- 主人公:神山仁那
- ヒーロー男子:光くん
- ヤバ女:長栖未玖
*
近場の他校で女子が変質者に襲われたため,女子は集団で下校するようにという学校からの注意が呼びかけられていた,ある朝のこと。
ヤバ女である未玖ちゃん(色白で細くてかわいい)が変質者に襲われたという噂が教室に舞い込みます。
ところが,実際はすれ違いざまに太ももを触られた「だけ」。
本人不在の中,ざわつく教室には未玖ちゃんを心配する女子がいる一方で「あんな短いスカートを履いていたら変質者に狙われても仕方ない」などと言う男子(モブ)が……。
「変質者怖がってるくせになんでそんなスカート短けーの?」
「結局さぁー 男に媚び売るために履いてんだろ?スカートなんかさー」
「説得力無ェんだよ そんなの触られて当たり前」
ここでスラックスJKこと仁那がブチ切れます。
「スカートは あんたらみたいな男のために履いてんじゃねえよ」
めちゃくちゃかっこいい。
でも女子(モブ)たちが仁那に追随しようとしていた時,当事者の未玖が登場します。
心配してかけよる女子(モブ)。気まずそうな男子(モブ)。
腹黒未玖さん「もーっ みんな大げさっ!たかが太ももだよぉ!?」
この一言で場の空気は一転します。
仁那は当事者でもないのにブチ切れたヤバい男女(おとこおんな)で,
未玖は男の気持ちをわかってるモテる女であると。
*
このシーンで気づかされたのは,私の中には仁那も未玖もいるということ。
状況によって,自分は仁那になるときも未玖になるときもあったなと。
仁那は本当に格好いいけれど,私は人生の多くの場面において未玖のように振る舞うことをしてきたなと思いました。
スカートは男の為ではなく自分が好きだから履いていると思う自分,
スカートが好きな男の視座を自分に取り込んでスカートを選ぶ日もある自分,
男の人に太ももを触られたら怖いと思う自分,
太ももくらいで騒ぐのは大げさだと思ってしまう自分。
関連記事:ねえ君はどうしてデートの日、いつも同じ服を着ているの? - どんな言葉で君を愛せば、
「男受けの良さそうな服を着ていたのは単に自分の好みだったから」と主張するこんな記事を書いたのはもちろん,私の中で仁那的側面が優位になっている日でした。
実際のところ「純粋に好き」なのか「男の人が好きそうなものという視点を自分に取り込んでいるから好ましく思う」のか,自信がない日もあります。
私は大学1年生の頃,サークルの飲み会で4年生を中心とした上級生からセクハラを受けていました。
たとえば胸をはじめとして身体を触られたり,卑猥な状況を思わせる写真を撮られたり。
体育会系の組織で3つ上の先輩というと神のような存在なので,セクハラというよりはパワハラと言った方が良いのかもしれません。
嫌気がさした同期の一部は先輩がいる飲み会にほとんど来なくなり,セクハラに対して怒れずに飲み会にも来る私は「わかってるやつ」認定を受け,偉いねと言われるようになりました。
私は怒りたかったのに怖くて怒れなかったのではなくて,拒否するほどの怒りや嫌悪感が沸いてこなかったのです。
高校生の頃に付き合っていた彼氏とはプラトニックだったので,自分が「女として見られる存在である」ことに確信を持てていませんでした。
身体を触られたとき,私の中にあったのは恐怖や怒りではなく「へえ,私もこの人たちにとっては女なんだ」という驚きだったと記憶しています。
昔から,自分が貶められたときに怒ったり泣いたりして抵抗することが苦手で。
失礼なことを言われて泣きたくなったり悔しくなったりしても,愛想笑いでその場をやり過ごしてしまう子どもでした。
しかも,そのことを他人によく「大人だね」と褒められてきた。
その経験によって私はセクハラをされても怒らない都合の良い女を求める男の思考を,自分にインストールしてきてしまったのかもしれません。
飲み会でのセクハラで後輩が辞める騒動が起きたときも,一度触られたくらいで大袈裟だなと思っている自分がいました。
この感覚はもちろん女の敵ですが,さよミニでいう未玖のような部分とも言えます。
戦略的に「わかってる女」認定を取りに行っているからです。
もちろん私だって触られて良い気分なわけはないけれど,それ以上に自分がそれを嫌がって場の空気を壊すことの方が怖かったし,拒否することで嫌われたくなかった。
私はコールが飛び交って吐くほど飲む,バカみたいな飲み会の空気が好きでした。
いろんな不文律があってメンバーそれぞれの気回しと無茶があって,そうやって何の生産性もないけれど「盛り上がる飲み会」というのは作られていて。
本当に頭が悪いんですが,私は頭が悪くない人たちとそうやって頭の悪いことをする飲み会という場が,ただ好きだった。
セクハラなんて別になんでもないという顔をして,「わかるやつ」と思われて,そこにいたかった。
そこが自分の,大学での居場所だと思っていたからです。
そう思うと,計算高い未玖が男に「未玖ちゃんはわかってる」と言われたいがために,わかってない仁那との差を見せつけようと「たかが太ももだよ?」と自分で言ってしまった気持ちは痛いほどわかります。
私も「べつに触られて減るものでもないし」と思っていました。
確かに胸は減りませんでした。ずっとEです。
気づかないまま代わりにすり減らしていたのは,自尊心でした。
わかってる みんなが悪い わけじゃない
男全員がセクハラをするわけじゃないし,女子を傷つけようとするわけじゃない。
男が怖いと言う女の子や女性に対してそう反論する男の人がいますが,そんなこと,男の人に指摘されなくてもわかっています。
『さよミニ』でも光くんの友達が,仁那に男として怖がられて落ち込む光くんに対して印象的な言葉を発していました。
「どんなに信頼関係があろうと,絶対に力で勝てない相手っていうのは怖えーんだよ、お前が男なかぎり女はいつも怯えてる。そういうの忘れんなよ」
これは正論です。
でもこれを逆手にとって「私だけは悪い男と良い男を一概に男としてくくらないイイ女」として自分を差別化しようとする未玖のような女がいます。
*
日常的に痴漢の被害にさらされている辻ちゃんという女の子がいました。
彼女は,未玖が発した「女性専用車両なんて男の人に悪い」という言葉が拡散され指示されたことの煽りを受けて,せっかくできた女性専用車両を利用しづらく,そのことによって痴漢から逃げられないという実害を負っています。
そのことを彼女とその友達から告げられた未玖の返答がこちら。
「私はチカンなんてヘーキだから専用車両なんていらないし、男の人全員疑ってるみたいでなんかヤだな、そんなことするなんて一部の人だけでしょ?」
*
未玖の言葉は100%の正論ですが,痴漢に悩んでいる辻ちゃんに向けるのは酷なものだと思います。
というか,おそらく辻ちゃんも男の人を怖いと思い,未玖のように全員を疑うべきではないという規範意識で何度も悩み,それでも拭いきれない恐怖に悩んでいたのではないかと。
これも私が新入生の頃の話ですが,飲み会の後「夜道は危ないから」と言う男の先輩Dに家まで送ってもらったところ,部屋に上がり込まれて襲われたことがありました。
そうすると何が起きるか。
夜道を一人で歩くよりも,知り合いの男と一緒に帰る方が余程怖くなるのです。
一方で私の周囲には,飲み会中にお手洗いで席を立った私を心配して「大丈夫?無理してない?」と声をかけてくれたり,本当にヤバい時にはストップをかけてくれたりするA先輩のような男の人もいました。
年上だったセクハラ上級生たちをA先輩が表立って止めることはできないとわかっていたので,そうやって優しくしてもらえるだけで十分ありがたかったし,私はすっかり懐いていました。
それでも一度先輩Dに植え付けられた恐怖は,大好きなA先輩のことも信じきれなくなるほどの威力を持っていたのです。
先輩Dに襲われたことは口止めに従って誰にも話せないままで,別の先輩の家で宅飲みをしていた日のことでした。
私「そろそろ帰ります」
A先輩「俺も帰ろうかな。送っていくよ」
私「悪いのでいいですよ~家遠いし(笑)」
A先輩「大丈夫大丈b「ほんとにいいです!一人で帰れます!」」
食い気味に拒否した私の言葉に,一瞬部屋の空気が凍りました。
他の先輩が「何、A嫌われてんの?笑」と笑いにしてくれて何とか空気が回り出して,その間も私は男であるA先輩に送られる不安と疑いたくない気持ちの間で揺れていて。
怖かったけれどA先輩の顔を立てたくて,結局2人で帰ることに。
帰り道に「俺が送るって言ったの迷惑だった?」と心配されて,そんな風に先輩に思わせるのが嫌で,初めて先輩Dに口止めされていたことや他の先輩からの連絡で困っていることを相談しました。
先輩は「自分が送れるときは送るけど,それができないときには一人で帰れるようにする」と言ってくれて,その日無事に帰れたことはもちろん,その後特別怖い経験をせずにいられたのは先輩のおかげだと思っています。
A先輩とは二人きりでも多くの時間を一緒に過ごしたし,その間私は客観的に見るとかなり無防備だったけれど,一度も恐怖や不快感を感じませんでした。
男の人の中には,A先輩のような優しい人もいます。
でも先輩Dのような人も「夜道は危ないから」などと優しい人を装って近づいてきます。
男の人全員が悪い人だなんて思っていません。
でも,いい人と悪い人は一見したところで見分けがつかない場合が多いのです。
痴漢をする人としない人の見分けがつかない以上,女性には「女性専用車両を利用して男の人との接触機会を避ける」という選択肢が与えられるべきだと思います。
わたしだけ 我慢すれば 終わるから
最後はこちら。
未玖にド正論でマウントをとられてしまった辻ちゃんは,女性専用車両を使えずにまた痴漢被害にあってしまいます。
*
辻ちゃんがサラリーマンに触られている現場に遭遇した仁那と光くん。
犯人を捕まえようとする仁那を辻ちゃんは引き止めます。
「いいの こんなの……大したことじゃないんだから」
「わ…私が触られることなんて私が我慢すればいいだけだからっ…」
*
わ、わかるよ辻ちゃん~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!
セクハラは場の空気を壊したくなくて騒げなかったけど,痴漢も別の理由で声を上げにくい。
怖いのです。人の人生を壊すのは。相手が痴漢の犯人であっても。
今この一瞬自分が耐えて逃げれば,人の人生を壊す恐怖からは逃れられます。
痴漢を犯した人や痴漢の冤罪を受けた人の境遇を取り上げた映画やドラマが話題になることがありますよね。
それらの作品には,順機能として痴漢や痴漢冤罪を防止する効果があるかもしれません。
逆機能として,痴漢にあった女性に「私がこの人を痴漢だと言ってしまったら,この人の人生は……」と,思わせて痴漢の暗数を増やしてしまう効果もあるのではないかと思っています。
サンプルは私と辻ちゃんだけなので説得力には欠けますが……
今回の記事で言いたかったことは,3つあります。
まず,スカートは男の人のために履いていないということ。
男の人に太ももを触られるためにミニスカートを履くJKはいません。
金髪クソモブ男が言った「ミニスカートを履いていたから変質者に狙われても仕方ない」という論は本当に良くないです。
被害者に責任があるような言い方をすることは二次被害に他なりません。
被害にあった女性の責任が問われる「ヴィクティム・ブレーミング」の異常さは,男女を逆転させたこの動画の異常さを見れば明らかなはずです。
What were you wearing? - Tracey Ullman's Show: Season 2 Episode 6 Preview - BBC One
女性警察官が強盗被害にあったという男性から事情を聞いているのだが、会話の内容がどこかおかしい。この女性警察官の態度は妙に威圧的で、男性を責めたてるような口調で質問。しかも犯人のことではなく、被害者であるこの男性のことについてばかり聞いている。
「強盗にあったとき、あなたは今のような服装をしていたのですか?」
「自分が裕福であることをアピールしているかのような身なりですね」
「被害にあった時、お酒は飲んでいましたか?お酒を飲んでいると襲われやすくなりますからね」
この動画で描かれている状況は、性暴力被害にあった女性たちに向けられる批判とそっくりだ。
性暴力と服装の相関関係を問うためにアメリカのカンザス大学で2017年に開催された展覧会「What were you wearing?(あなたは何を着ていたの?)」の内容を見ると,ミニスカートのような挑発的とされる服装でなく長いパンツを履いていた人も被害に合っていることがわかります。
https://www.huffingtonpost.jp/2017/09/25/what-were-you-wearing_a_23218909/
スカートよりもむしろデニムのようなパンツの方が中途半端に脱がせたときに足の自由を奪えて都合が良い,なんて気分の悪い話を聞いたこともあります。
このようにそもそもスカートが性犯罪と結びついているわけではないし,増してやそれを履く女の子が悪いなどと言うべきではありません。
2つめは自戒でもありますが,「男の人が怖い」のは女子のデフォルト設定なので,女性は男の人だというだけで相手を警戒してしまう気持ちに罪悪感を抱く必要はないということです。
男性はそれで一々ショックを受けないでほしいし,そこで「信頼されたと思ってたのに!」なんて憤慨するのは最悪です。
リアルの知り合いじゃない男の人と飲んだあと致すために密室に行くとき,大袈裟だけど私はどこかで殺される可能性まで考えてるような気がする。だから最悪の場合でも誰かに助けを求められそうなホテルの方が安心だし,ナンパとかでいきなり自宅まで連れ込める男の人もついていく女の子も凄いなと思う。
— さやかちゃん (@sayakacha_n) 2019年1月12日
私自身,二人きりの状況では仲良くなった男友達の部屋にも上がりません。
本当に信頼していたA先輩の部屋には何度も上げてもらいましたが,ここでいう信頼とは「この人なら何もしないだろう」というよりは「この人になら何をされても(最悪の事態になっても)いい」と思う状態です。
密室に二人きりという状況を受け入れるハードルがこれほど高い女子もいるということは覚えておいてもらえたら嬉しいです。
さよミニの正暉くん「どんなに信頼関係があろうと,絶対に力で勝てない相手っていうのは怖えーんだよ、お前が男なかぎり女はいつも怯えてる。そういうの忘れんなよ」
3つ目。
これも自分に言い聞かせるようなかたちになりますが,痴漢にしろセクハラにしろ,自分が我慢すれば済むと思ってしまうのは本当に良くないです。
「減るものでもない」って割り切るようなことはやめましょう。
胸やおしりが減らなくても,心はすり減っています。
「ちょうどいいブスのすすめ」とかいう女による男のための女への呪いとか,「男はわかってる女が好き」みたいな男による男のための女への呪いとか,そういうのを真に受けて自分をすり減らしていくのはやめましょう。
ここでいう自分とか心というのは,所謂自尊感情に限りません。
恋愛体質で常に好きな人がいて,男性にセクハラをされても怒らない私のようなタイプは,周囲の目に「男好き」であるように映ることがあるようです。
同期の女の子に,冗談交じりに「先輩に気に入られて調子乗ってんじゃねーよ」と典型的な台詞を言われたこともありました。
でも私は,誤解を恐れずに言えば男性という生き物が好きではありません。
説明するのが難しいのですが,強く嫌悪感を抱くのではなくて,薄っすらと絶望していると言う方が正確でしょうか。
私が男の人に浮気をされてもセクハラを受けてもそこで怒りに直結しないのは,自尊感情が低いということよりも「まあ男性だもんね,仕方ない」という諦めがあるからなのではないかと思っています。
いずれにせよ,正しく怒れないのは不健全な状態といえそうです。
自分が傷つけられたときにきちんと抵抗できる自尊心と,信頼するに足る男の人には素直に期待できる健やかな精神を育むためにも,自分が我慢するという方法で丸くおさめようとするのは男女の問題に限らずやめようと思いました。
「さよならミニスカート」では,昨今話題になっている「アイドルを傷つけるファン(を名乗る加害者)」という存在も一つの大きな主題になっています。
読み始めるなら,今です。
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