「異性の友人と関係を拗らせて気まずい!どうしたら元の『良い友達』に戻れるだろう?」。
そういう悩みを一度でも抱えたことがある人は、世のラブソングなんかを聞いている限りそれなりにいるのではないかと思うし、少なくとも私はある。あった。すっかり忘れていたのだけれど。
さて、ご存知のとおり世間には「鉄は熱いうちに打て」という諺がある。辞書を引くと「(鉄は熱して柔らかいうちに鍛えて有用な形につくりあげることから)①人も精神が柔軟性に富む若い時代に有益な教育を施さなければならないということのたとえ。②手遅れにならないうちに処置を講ぜよということのたとえ」と出てくる。
確かに人生においては、逃してはいけないタイミングがある。「チャンスの神様には前髪しかない」なんて言葉で例えられたりもするように。でも、そんな話ばかりでもない。全く同じ機会こそ無くとも、幸運は形を変えて巡り巡ってくる。
話を鉄に戻そう。熱いうちに鉄を打ったほうがいいのはあくまでも鉄を打つ人間が冷静なときであって、我を忘れたまま、熱くなっている鉄を何とかしようとしたところで、大火傷をするのが関の山だ。いや、鉄の話に戻しても何のことかさっぱりわからないな。
私が今回報告申し上げたいのは、時間にしか解決できない拗れというものが確かに存在しているようだということ。焼け石に水をかけても無駄だが、石を焼く火は範囲内で燃えるものが尽きれば消えるように、そして焼かれなくなった石は素手で拾えるほど冷えていくように、時間にまかせてさえおけば解消される問題があるのだ。
拗らせてる先輩に拗らせOL認定されました、おしまい
— ささやか (@oyasumitte) 2021年9月11日
三年前、大学生だった私は拗らせていた。最近会った先輩に「拗らせてるね」と言われてしまった性癖のことではない。友人との関係を拗らせた。人間関係も生活圏もズブズブに被っている学部の男友達を好きになり、いろいろあって寝るようになり、いろいろあって拗れに拗れていた。
基本的には、異性とは一度寝たら寝たことがない異性には二度となれない、それ以上でも以下でもないと思っている。枕を交した程度で壊れるような関係性なんて、最初からなかったのと同じようなものだし、いい友達であることと男女の関係があることは余裕で両立する……というよりも、それぞれ独立した事象であると考えている。
ただ、学生時代に拗らせてしまった彼とは、いろいろあったのだ。いろいろ。性格の相性とかタイミングとか、とにかく全ての要素がお互いに望ましくない方向にはたらいた。当時の私は目の前で熱くなる鉄をどう扱っていいのかわからなかったし、今思えばそれは相手も同じだった。何とかしないといけないという焦りしかなくて、それは全く役に立たないどころか、却って状況を悪化させるような行動にばかり繋がっていたように思う。
どうしようもなかった。すっかり気まずくなったまま別れたし、今後一生気まずいものと思っていた。
時は流れ、三年後。気まずさに頭を抱えていたことも忘れた頃になって、ひょんなことから彼と再会した。拗らせ倒していたのが嘘みたいに楽しかった。三年間の私は、問題解決の為の努力は何もしていない。時は最良の薬。果報は寝て待て。待てば海路の日和あり。
実際、関係を拗らせた事実はどこまでいっても無くならない。でも「あの頃私たち拗れてたね」と笑えたとき、出会ってから数年を経た中で、今が一番いい関係だと感じた。
熱いまま打って整えようとするほど歪になっていく鉄の塊があって、修復するには万策尽きたと感じたら、諦めて寝かせる方が良いのかもしれない。諦めたことさえ忘れた頃に、冷えたそれを見つけて拾い上げて。そのときそれがどんな歪な形に成っていても、懐かしんだり笑い飛ばしたりすることができれば、十分に克服だとか関係の再構築という名前が似合う結果になっているような気がする。
寝て拗れた関係を三年寝かせた友人と、お寿司屋さんが五日寝かせて熟成させた金目鯛を食べ、その美味しさに感動しながら、そんなことを考えていた。
時間をかけなくても同じ結果になるのであれば、誰も鯛を寝かせたりしない。時間にしか成せないことがあるのだ。
打ち損じた鉄のかたちは元通りにも理想形にもならないし、拗れた関係も寝かせたからと言って魚のように熟成はしないけれど、時間をおいて対象の熱をとったりそれと向き合う自分たちが年をとったりすることにはやっぱり意味がある。寝かせている間に、それを歪で可愛いと笑える自分たちになっていた。むしろ、拾い上げて振り返るときに愛おしく思うのは、案外綺麗に打たれた鉄より不細工な方だったりもする。
大体のことは時間が解決してくれるし 時間にしか解決できないことは結構あるわね 時間というか当社比成熟した自分かな
— ささやか (@oyasumitte) 2021年9月27日
三年前の私へ。こんなことを言っても信じられないと思うけれど、今一生死ぬほど気まずいと思っているその男と「あの頃死ぬほど気まずかったね」と笑って話す日が来ます。来るし、そのとき私はあなたが彼を好きだった理由を思い出し理解こそすれ、同じように彼を好きになることはありません。大丈夫。全部大丈夫になるので安心して眠ってください。
最後までお読みくださったあなたへ。ありがとうございました。おやすみなさい、さやかでした