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ハッピー賢者モードと人生イヤイヤ期を行ったり来たり

素敵な狂気 「北斎づくし」展

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「北斎づくし」展に行ってきた。

企画展に行くのは元々好きだが、昨年から特に浮世絵にはまっている。そして浮世絵展を見に行くと必ずと言っていいほど出会うのが「画狂老人卍」、葛飾北斎の作品である。

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20歳で浮世絵師としてデビューしてから90歳で没するまでの70年間、常に挑戦を続けて森羅万象を描き抜こうとした画狂の絵師・葛飾北斎。

みどころ|生誕260年記念企画 特別展「北斎づくし」

 

葛飾北斎と聞いて、何を思い浮かべるだろう。最も多いのは大波と呼ばれる「神奈川沖浪裏」だろうか。あるいは赤富士、「凱風快晴」かもしれない。どちらも北斎の代表作「冨嶽三十六景」全46図の一部である。

 

本展には、その「冨嶽三十六景」全46図と『富嶽百景』計102図、『北斎漫画』全15編約3,600図の全てが集う。『北斎漫画』なんて、全頁を展示するために500冊も集められたらしい。

オタクはこの情報に興奮するし、実際、会場には当時の付属品などオタク心をくすぐろうとしている展示がいくつもあったが、ここでその興奮を理解する必要はない。行く理由なんて有名な人の有名な絵見に行ったろ〜で十分だし、その気持ちは必ず満たされる。

通常、大きな企画展には前(中)後期で展示替えがあり、目玉になる作品はなかなか一度では見られない。そのため自分が見たい作品の展示期間を調べてから行くものだが、今回はその手間も心配もいらない。著名な3作品の全てが通期で展示されているからだ。尋常ではない。

 

そもそも浮世絵には、筆で直接描かれる「肉筆画」と、絵師が描いて彫師が彫って摺師が印刷する「木版画」がある。後者の「木版画」の良さは同じ作品の大量生産ができるところだが、実は版木は重版されるうちにどうしても摩耗してしまう。細かい表現が表れなくなり、刷り上がる作品は、同じだが同じではない作品になっていく。本展には同作品の初期摺りと後摺りを並べて展示するコーナーもあり、その差は歴然だ。

全図・全頁が展示されているだけでも十分すごいことだが、本展は特に印刷が鮮明で保存状態が良いものが多い。作品自体は初見でなくても、今まで見たその作品の中で一番綺麗ということは十分にあり得る。

 

 

さて、日時指定予約をして、入口で手指消毒と検温を済ませ会場に入ると、まず『北斎漫画』が待ち受けている。

この部屋でスタッフの方に「順路はないので奥の部屋から見ても大丈夫ですよ〜」と何度も言われるが、注意してほしい。私が行った土曜朝の枠で言えば、その『北斎漫画』の展示をマイペースにストレスなく見られるのは、開場後の30分だけだった。人が増えたときに全頁を見ようとして列に呑まれると、前後の人との距離は満員電車並みに近い。照明が明るく緊張感が生まれにくいためか、人の会話もそもそこ多かった。個人的にこの部屋は、自分と同じ時間枠の入場者が少ない間に見切ってしまうことをおすすめしたい。

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(左上、大男が机に両肘ついて小顔ポーズしているの可愛くないですか?)

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(男の可愛さに比べ、ネコチャンの顔は凶悪すぎでは?)

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(一筆書きという文化、本当に絵が上手い人たちのお戯れという感じがして大好きです)

 

『北斎漫画』の後は「冨嶽三十六景」、『富嶽百景』と続く。三作品それぞれの間に、摺師の製作過程映像の展示室と、没入シアターという大画面で見る展示が入ったのが良かった。「冨嶽三十六景」以外の作品は絵本や読本であり、小粒な展示が続く中で、丁度良い目の休憩になる。

 

「冨嶽三十六景」については、この部屋だけすべて撮影禁止になっていたので全く写真がない。ぜひ実物を間近で見てほしい。凄い以外の言葉を失う。描いた人、彫った人、摺った人、全員もれなく凄い。

また、『北斎漫画』の展示室は行列になって進むので密になりがちだし、わりとザワザワしていたけれど、この部屋は不思議と静かだった。手前のシアター型展示室には、行列を解く効果もあるのかもしれなかった。照明もかなり絞られていて、落ち着いた空間と絵の精緻さに呑まれる。

 

最後の展示『富嶽百景』は、富士山にまつわるさまざまな神話や歴史、風俗、名所等を描いた絵本。下に載せた「宝永山出現」のように一見しただけでは富士にまつわる絵とはわからないものもある。

宝永山とは富士山を南から見たときに右側に見える出っぱりの部分で、富士山最大の側火山である。図はその誕生の瞬間である、宝永4(1707)年の宝永大噴火が起きた様子を描いたもの。余談だが、2021年現在、富士山における最後の噴火はこの宝永噴火となっている。

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 『北斎漫画』の全頁、「冨嶽三十六景」「富嶽百景」の全図を、たった1,800円で一度に見られる北斎づくし展。良い意味で正気の沙汰ではないし、またとない機会だと思うので、興味があればぜひ。

 

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開催概要

展覧会名生誕260年記念企画特別展「北斎づくし」

会期 2021年7月22日(木.祝)~9月17日(金)

開館時間 11:00~19:00(最終入場18:30)

休館日 8月10日(火)、8月24日(火)、
9月7日(火)

会場 東京ミッドタウン・ホール [東京ミッドタウンB1]
〒107-0052 東京都港区赤坂9丁目7-2

公式HP 生誕260年記念企画 特別展「北斎づくし」

 

 

※私が行った土曜日の11:00-13:00頃は、一部ソーシャルディスタンスを保つのが難しい場面がありました。気になる方は予約の際、混雑しそうな土日は避けた方が良いかもしれません。

※展示替えは無いと書きましたが、 『北斎漫画』「冨嶽三十六景」「富嶽百景」以外の入替えはあるようです!